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最高裁判所第三小法廷 昭和34年(あ)1190号 判決 1960年2月23日

主文

原判決中被告人米沢喜一に関する部分を破棄する。

被告人米沢喜一を懲役六月に処する。

但しこの判決確定の日より三年間右刑の執行を猶予する。

被告人米沢喜一から金五千円を追徴する。

訴訟費用中第一審における証人筒井要造、同甚内照信、同斉藤直之、同水口与次郎、同水野雅夫、同平井清治、同富樫才次郎、同石黒十作、同岩本繁次郎、原審における証人村中次郎吉に各支給した分は被告人米沢喜一の負担とする。

被告人米沢笑子の本件上告を棄却する。

理由

被告人米沢喜一、同米沢笑子の弁護人島崎良夫の上告趣意は訴訟法違反および事実誤認の主張を出でず、被告人米沢喜一の弁護人竹沢哲夫の上告趣意は憲法三一条違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張を出でず、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また被告人米沢笑子については記録を調べてみても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

しかし職権をもって調査するに、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第四九九号、同三二年一〇月九日大法廷判決、刑集一一巻一〇号二五二〇頁)の趣旨に徴し、また公職選挙法一九九条の二、同一九九条の三、同一九九条の四などの規定に「公職の候補者」または「公職の候補者となろうとする者」と異別に規定しあるに照らし、同法二二一条三項にいう「公職の候補者」とは、同法の規定にもとづく正式の立候補届出または推薦届出により候補者としての地位を有するに至った者をいうものと解すべきであり、未だ正式の届出をしない、いわゆる「立候補しようとする特定人」を包含しないものと解するを相当とする。しかるに、原判決は、被告人米沢喜一は、昭和三二年一〇月一三日施行の富山県中新川郡上市町議会議員選挙に際し、同年七月上旬頃には上市区から立候補することを決意していたものであるが、自己の当選を得る目的を以て立候補届出前に、原判示の供与ないし饗応接待の犯行をなした旨認定し、被告人の右所為につき、公職選挙法二二一条三項を適用して被告人を処断していることは所論のとおりである。故に、公職選挙法二二一条三項にいう「公職の候補者」には「立候補しようとする特定人」も含まれるものと解した原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、原判決中被告人米沢喜一に関する部分は、刑訴四一一条一号によりこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

よって被告人米沢笑子については刑訴四一四条、三九六条により本件上告を棄却すべく、同米沢喜一については同四一一条一号により原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同四一三条但書、四一四条、四〇四条により原判決の確定した犯罪事実に法律を適用すると、被告人米沢喜一の判示第一の各所為、同第二ないし第八の各所為中各事前運動の点はいずれも公職選挙法二三九条一号、一二九条、罰金等臨時措置法二条(判示第一、第六については更に刑法六〇条)に、各金品供与、饗応の点はいずれも公職選挙法二二一条一項一号罰金等臨時措置法二条(判示第一、第六については更に刑法六〇条)に該当するところ、右事前運動と金品供与、饗応とはそれぞれ一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条を適用し、重い各金品供与、饗応の罪の刑に従い、いずれも所定刑中懲役刑を選択して処断すべく、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条に則り犯情の最も重いと認める判示第四の金銭供与の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内において被告人米沢喜一を懲役六月に処し、なお情状により刑の執行を猶予するのを相当と認め刑法二五条一項二号を適用し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、被告人米沢喜一が判示第四の甚内照信に供与した金五千円は同人よりその後(昭和三二年一〇月七日頃)相被告人米沢笑子を通じて被告人米沢喜一にそのまま返還されたが、その全部を没収することができないので公職選挙法二二四条後段に則りその価額金五千円を追徴することとし、訴訟費用については刑訴一八一条一項本文を適用し、第一審における証人筒井要造、同甚内照信、同斉藤直之、同水口与次郎、同水野雅夫、同平井清治、同富樫才次郎、同石黒十作、同岩本繁次郎、原審における証人村中次郎吉に各支給した分は被告人米沢喜一の負担とすべく、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋 潔 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

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